大阪森之宮地域のコミュニティ団体『団地の寺子屋』が運営する日本語教室が2020年1月25日にスタートしました。私、稲葉は、この教室に講師として参加させていただいています。生徒さんは、森之宮地域にお勤め、または住んでいらっしゃる外国ルーツの方たちで、それぞれのご出身はフィリピン、タイ、中国と国際色豊かです。
この語学教室のプロデューサーの上野泉さん(株式会社 関西計画技術研究所 代表取締役)に、教室の発足のいきさつや運営上の工夫、展望などをうかがいました。
1、今回、語学教室を発足させたいきさつを教えてください。
大阪市城東区の森之宮地域では、以前から老幼共生をコンセプトにした『団地の寺子屋(松井宏悦代表)』という団体が高齢者サロンや子育てサロンを展開してきました。
最近では、地域の子育て中のお母さん達でチームをつくり、子ども食堂を立ち上げています。
現在、この子供食堂では、高齢者を中心に食事提供をしていますが、段階的に子どもまで対象を広げていく計画を立てています。
プロデューサー上野泉さん(株式会社 関西計画技術研究所 代表取締役)
ぼく自身は、子ども食堂の実行委員会に参加したり、高齢者サロンを見学したりしていました。
今回の語学教室は、『団地の寺子屋』の新しいメニューとして立ち上げました。もともと、赤い羽根共同募金から松井代表に、子どもの貧困対策などに関わる支援の助成金の募集案内がありました。
ぼくは去年まで大阪市立森之宮小学校でPTA会長をやっていたので、外国ルーツの児童や生徒の日本語の学習状況も知っていましたし、また、保護者の語学学習に対する実需要や地域による子育て力の重要性を肌で感じていました。それで、助成申請をする段階になって、『団地の寺子屋』の打合せで、すぐに語学学習のメニューを提案しました。
2、差し支えなければ、教室運営の財源を教えてください。
財源は、赤い羽根共同募金から助成を受けています。
本事業のスタッフは、講師も含め有償ボランティアとして皆さんに参加してもらっています。
今のところ、語学教室の生徒さんから月謝はいただていませんが、将来的にはソーシャルビジネスなどの手法も視野にいれつつ財政的な自立も図りたいと考えています。
ただし、実施する事業の性格により、ビジネスモデルも使い分けられるよう選択の幅を広げられるようにしたいと思っています。
3、現在は、英語6クラス、日本語1クラスです。各クラスの生徒さんは年齢も国籍も異なりますが、英語と日本語の教室をつくったねらいは何ですか?
現在、英語教室は小学生、日本語教室は16歳以上を対象にしています。どちらも共通する目的は、第1に語学を身につけるということです。しかし、どちらも国際交流事業と位置付けているので、語学学習にとどまらず、それぞれの言語を使った国際交流という目的をもっています。
英語であれば、子供たちがスカイプを通してフィリピン・セブのフェイス先生の授業を受けますが、子どもたちが海外の先生と国際交流し、その中で英語によるコミュニケーション力の基礎が養われればよいと思っています。
日本語教室も、東京の稲葉先生と森之宮をスカイプでつないで授業をします。現在、中国人、フィリピン人、タイ人が参加していますが、こちらの教室も学習を通じて外国人同士のネットワークを広げてもらったり、彼らが森之宮の地域コミュニティに溶け込むきっかけになればよいと思っています。
日本語教室アシスタントの平山さん(左)とスタッフの岡田さん(右)
ゆったりとした楽しい時間を過ごしたい人、もっと日本語を極めたい人、なんとなく居心地がいいから参加する人など、いろいろな人が自然に参加できる空間にしたいと思っています。
また、両教室ともに、生徒にiPadを一人一台配布して、先生や教材をiPadに映して学習しています。子供に対しては、この学習を通して自然にIT機器に慣れてもらうという目的もあります。
さらに、この事業自体、”地域”というキーワードを大切にしたいと思っています。地域による地域のための活動というところをいつも意識しています。
ただ、それは、地域の社会資源だけで成立させるのではなく、もっとオープンな形で地域外、国内外と手を結び、地域を盛り上げることができたらいいと思っています。
今回も、英語、日本語の両先生ともにフィリピン、東京といった森之宮地域外から招いています。つまり、地域による地域のための活動といっても、活動主体が”地域”であれば、日本を含む世界中の人と手を組んで地域を活性化できればいいと思います。
こうした活動を見た森之宮の住民の中から、「これだったら自分でもできる」、「ネットを使ってこんなことができる」、「手伝ってみたい」、「参加してみたい」、という人が現れたり、別の活動主体が現れればもっといいと思います。
4、日本語クラスが1月25日、英語クラスが2月1日にスタートしました。実際に生徒さんたちが語学を学ぶ様子を見て、どのような感想をお持ちですか?
このインタビューの時点では、両教室とも、第1回目の授業を終えたところです。準備をしっかりしてきたので自信はありましたが、 ぼくにとっても初の試みですから、もちろん不安もありました。
ただ、どちらの教室も先生が期待値を上回る授業をしてくれたので、予定しているカリキュラムの軌道には乗ったと思います。
英語教室では、応募者数が予定を大幅に上回り、最終的に6クラスに編成しました。初回なので子どもたちもまだ本領を発揮していなかったと思いますが、授業後に保護者の一人から、姉妹2人とも楽しんだようで、次回を楽しみにしている様子だとのメールをもらいました。
日本語教室も、生徒の笑顔が印象に残っています。語学教室で目指していることの一つに“ゆったりした時間をすごす”ということがあるので、いいスタートがきれたと思っています。日本語教室の生徒からも後日、ひとことのお礼のメールをもらいました。まだ、日本語のライティングもままならないのに文字通り、ひとこと「ありがとう」とだけ書かれたメールを読んだ時は本当に嬉しかったです。
5、今後の展開や展望を教えてください。
しばらくは、現在の運営形態で進めていく予定です。将来的にはソーシャルビジネスの手法も視野に入れて、いろいろなビジネスモデルを選択できるようになればと思います。
例えば、貧困対策、地域による学習支援、多様性を考慮したコミュニティづくりなど、どこを目的にするかでフィットするビジネスモデルも変わってきます。目的にあったビジネスモデルの選択の幅を広げたいと思います。
また、支援のメニューも増やしたいと思っています。稲葉先生の提案で、就労支援としての再就職に役立つ中国語学習の教室であったり、現在、森之宮小学校では放課後に教務主任の先生がフィリピンの児童に日本語を教えているので、そうした子どもを対象にした日本語教室なども開きたいと思っています。
また、これまで述べたことは、大阪森之宮という地域という視点ですが、視点を変えると違う展開も見えてきます。例えば、英語教室で需要があり、森之宮でソーシャルビジネスとして成立し規模が拡大すれば、先生の住む地域(フィリピン・セブ)で先生やスタッフを増やすなど雇用を創出し、セブにおける貧困対策につなげていく可能性もでてきます。
このように、グローバルとローカルを自由自在に行ったり来たりできるような活動に発展していけばよいと思います。
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